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鬱系物語文章「45」

頭の中に聞こえてきた音で目が覚めました。
今日もまた一日が始まってしまったと思うと頭の中がもやもやしてきました。
服を着替えて、何かに引き寄せられるようにゆっくりと階段を下ります。
冷蔵庫から取り出した硬くて冷たいごはんを食べました。
ごはんを食べたらいつも通りに歯を磨いて、顔を洗います。
鏡に映ったわたしの姿を見つめていると、なぜだか涙があふれてきます。
わたしは外に出ることが怖いです。
外に出ると、周りにいるたくさんの人の悪意が流れ込んできてわたしを掻き回すのです。
けれどわたしは外に出なければなりません。いつも同じ場所に向かわなければなりません。
そうしなければいけないと頭の中にずっと記憶されているのです。
いつもと同じ場所で、いつもと同じことをします。いつもと同じことをされます。
いつもと同じように、罵声と暴力と悪意をぶつけられて、
どこにも逃げ場のないわたしは自分の中に逃げなければなりません。
自分の中、心の奥底にある幸せな世界だけが、わたしの救いです。
そこにいる、わたしにとって一番大切な人。
彼女はたった一人、わたしにやさしい言葉をかけてくれます。わたしはここにいていいのだと言ってくれます。
わたしはその世界の中ではずっと幸せでいられます。
いいえ。
その世界の中でしか、幸せでいられないのです。

今日もいつものように、一人で家に帰ります。
今日の苦しみからは解放されたはずなのに、どうして足取りが重いままなのか、わたしにもわかりません。
わたしは一人でいると暗い想像ばかりが浮かんできます。
つらくて、悲しくて、自分が自分であることすらいやになりそうです。
気がつくとわたしは電柱に頭を打ち付けていました。
痛みは感じます。けれどそれ以上に、自分の内側が痛むことから逃れたかったのです。
逃げ場などどこにもないとわかっているのに。
家に帰ってきて、ごはんを食べて、お風呂に入って。
部屋の中に一人でいるとき、わたしは眠らないまま夢を見ます。
たくさんの風景がわたしの眼の中に入り込んできます。
その夢の中で、いつもおなじ人に出会います。
わたしの心の奥底にいる人。
わたしの一番大切な人。
わたしを愛してくれるたったひとりの人。

「……エリーベル」

その名前を呼んだとき。
わたしはなぜだか悲しくなって、また涙があふれて。そんな時聞こえる、彼女の声。

「もう、我慢しなくていいんだよ」

その時でした。わたしは気付いたのです。
救われるためのたったひとつの方法。それはわたしの目の前にずっとあったのだと。
わたしがそれに気付いていなかっただけなのだと。
窓を開けたら、そこには満月と、どこまでも広がっていそうな美しい星空。
わたしを呼んでいる。本当の幸せに導いてくれる。
気付けばわたしは窓の外へ飛びだしていました。
彼女に導かれるままに。わたしが本当にいるべき場所へ向かうために。

そう、そこは……
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