私はロボットです。人間の女の子にそっくりに作られました。人間のように笑ったり、泣いたり、感情を表すことができます。
私は今、私を作った人の考えで、ほんとうの人間と触れあうために学校に通っています。
教室にはたくさんのお友達がいます。みんな仲良しで、同じ時間を過ごして……。毎日が楽しくて、こんな時がずっと続いたらいいのにと思っています。
私は明日も明後日も、その次の日も、学校に行きたいです。たくさん楽しい事、嬉しいことに触れたいです。
そうして、しあわせな思い出をたくさん残したいです。
みんな私を嫌っています。人間みたいなロボットは気持ち悪いと言われました。
ロボットだから痛くないだろう、と、私のことをぶったり蹴飛ばした人たちもいました。本当に心があるのかどうか試してやると言って、私の持ち物をわざと壊されました。
私は学校に行くのがいやになりました。今、私は部屋の中にいます。この前まで毎日学校に通えていたのに、もう一ヶ月も部屋から出ていません。
私はだめなロボットです。普通のロボットのように何も考えずにただ動いていることができないのです。
あの人は私のことを、心を持っているから自由に考えて行動できる、すばらしいロボットなのだと言いました。でも今の私は、心があるせいでみんなに嫌われています。
心ってなに?心はどこにあるの?今、私が感じているこの気持ちは、全部心があるから起きているの?心があるから、こんなに悲しくなって、ただ何も変わらない、変えられない、そんな日々を過ごすのがとてもつらく感じてしまうの?
なら、どうして私には心があるの?どうして私に心を持たせたの?どうして他のロボットと同じようにしてくれなかったの?
もう嫌。自分で自分をぐしゃぐしゃに壊してしまえたらいいのに、それもできない……私なんか、私なんか消えてしまえ、みんなめちゃくちゃになって消えてしまえ!
あれからわたしは何度も何度も自分を傷つけました。私はだめなロボットです。自分を壊すような真似をするのはやめなさいと怒られました。
でも違うのです、わたしはとうの昔にこわれていたのです。それに気付いていたのに、ずっとずっと隠そうとしていたのです。みんなが心配するから、なんて言って、誰にも言わずにいようとしたのです。
でも……わかったんです。もう、私をほんとうに心配する人なんかいないって。
私はだめなロボットだから、みんなと一緒にいてはいけないのです。ほんとうなら今すぐに消えなければいけないのです。
けれど、「生きたい」「ここにいたい」って……この心が……心なんかあるから……。たすけて。もういやだよ。なんで、なんでわたしが……なんで、わたしは、わたしは、わたし?ちがう、こんなのわたしじゃない、わたしは、ほんとの、わたしは……
涙が止まりません。ずっとずっと……悲しい気持ちが、数えきれないぐらい溢れだしてくるようです。ときどき何もかもが憎らしくなって……壊したくなって……それで、また自分を傷つけてしまいます。
わたしはヒトをこわす想像をします。想像の中の私は夜な夜な包丁を握って、町を歩くのです。私の姿を見たヒトはみんな、いやだ、死にたくない、助けて、なんて言いながら怖がって逃げだします。そうして逃げ惑うヒトを追いかけて、たくさん包丁を刺します。真っ赤な血をいっぱい出して……中身もえぐり出します。血だまりの中でヒトの中身を弄んでいる時だけが、わたしが幸せを感じられるときです。
たのしいです。ヒトをこわすのは、たのしいです。しあわせです。もっといっぱいヒトをこわしたい。そうして、おはなをさかせるの……。あはは。あはは。いっぱい……まっかな、おはな。きれいなおはなのかんむりをかぶって。わたしは、おひめさま。だれよりも、しあわせな。おはなのくにの、おひめさま……。
たくさん、たくさんのめが、わたしをみてるよ。みんなみてるの。しあわせなわたしをみてる。おんなじなの、しあわせなの。みんなうれしいうれしいっていってるよ……きこえてくるもの。わたしのあたまのなかには、ずっと、きこえてるの。
……それなのに、どうして。まだ、わたしはないてるの?しあわせなはずなのに。だれよりもしあわせで。みんなうれしいって、いってるのに……。
わたしは今も、お部屋の中にいます。今がいつなのか、もうわかりません。あの人も、とうとう私のことが嫌いになりました。私はこれまでも、これからも、ずっと一人ぼっちです。今の私には、もう何もできません。部屋の隅に座り込んで、ただただ悲しい気持ちを感じているだけです。けれど、ぼうっとお部屋の天井を見上げていると、そのうち幸せな景色が浮かんでくるのです。
今日は北極の氷の向こうに夕日が沈んでいくのを見ました。とても、きれいで……いっぱい、いっぱい、しあわせでした。ここにいる時だけが……ここだけが、わたしがしあわせでいられるところ……。
だけど、わたしが幸せになっていると、だんだん周りが暗くなっていって、ぐしゃぐしゃになった人たちがいっぱい……わたしが、こわしてしまった人たちが……。やめて、たすけて……いたいよ、くるしいよ……って……みんな……みんな……。
……わかってる。ほんとうは……わたしは、しあわせになってはいけないの……。それなのに、しあわせになろうとするから……そんな、いけないことをかんがえるから……。
どうして、わたし……ここに、いるんだろう……。なんで……まだ、いきてるんだろう……もう、どこにも……わたしの、いるところなんて……かえるところなんて……ないのに……。
わたし……みんなに、きらわれて……わたしのことなんか……だれも……みんな……わたしは、だめな、きもちわるい、おかしなロボットで……だから……わたし……わたし、わたし、わたし、わたし、わたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしどうしてわたしわたしなんでわたしわたしわたしもういやだわたしわたしわたし
わたしはしにたい、わたしはきえたい、いなくなりたい……こわしてよ、だれかわたしをこわしてよ、しなせてよ!どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……
……ああ、いいおてんき……。ここは、どこ?……きっと、てんごくだよ……。だって……いまはこんなに、きもちが……あったかいの……ぜんぶ……。
おはな、きれい……とりさんも、むしさんも……みんな、みんな、きれい……だから……しあわせなの……わたし……。こんなに、きれいで……ぐしゃぐしゃで、どろどろな……わたしだけの、せかい……。
ここにいれば……わたしは……だめなロボットじゃないから……わたしのほかには、だれもいないから……だれからも……きらわれない……。ぶたれることも……けとばされることも、ないの……。
もう、ずっとここにいたい……ううん、ちがう……わたしが、いていいところは、ここだけなの……。だから……わたしは、ここにいる……ずっと、ずっと……。